今週の米PGAツアー「The American Express」の第2日めのプレーでちょっとした出来事が発生しました。試合がおこなわれているのは、先日亡くなったピート・ダイ(Pete Dye)が設計した、カリフォルニア州ラ・キンタにあるPGAウエスト・スタジアムコース(PGA West’s Stadium Course)です。
そのコースの16番(パー5)のグリーン左サイドにはとんでもないバンカーが設置されています。われわれアマチュアが入ると二度と出られないようなバンカーです。そのバンカーに運悪く入れてしまったスコットランド人のラッセル・ノックス(Russell Knox)選手ですが、さすがはプロ、スーパー・スーパーショットでピンに寄せました。
実は今、そのバンカーショットが、ショットのすばらしさより別の意味でメディアにとりあげられています。先にボールをグリーンにのせ、ノックスのショットを見ていた同伴競技者のケビン・ナー(Kevin Na)選手が、グリーン上をころがるノックスのボールを見て、思わず「自分のボールに当たれ!(Hit my ball!)」と叫んだからです。
ノックスの打ったボールが、グリーンにのりピンを通り過ぎるほどの勢いがある場合、実際今回のショットはそうでしたが、自分のボールに当たれば、ピンにより近いところでボールは止まります。すると次に打つパットの距離は短くなり、ノックスにとっては非常に有利になります。当てられた自分のボールは無罰で元の位置に戻せるので、こちらは何の問題もありません。
自分のボールが先にグリーンにのったあとで、同伴競技者がグリーンの外からチップショットを打つ場合には、罰則を伴う厳格なルールがありますので、ご記憶ください。チップショットは距離がない分、チップインの確率、ピンに寄る確率は高くなりますので、ピンの近くに同伴競技者のボールがある場合、当たる確率は高く、ボールに当たってピンのそばに自分のボールが止まる確率も上がります。
そのため、ゴルフ規則15.3aは以下のように規定しています。「グリーン上にあるボールが、他のプレーヤーのプレーに資すると判断した場合、自分のボールであればマークして拾い上げていい。それが同伴競技者のボールであった場合、他のプレーヤーにマークし、拾い上げるよう要求していい。」
さらに、「もし、あなたと同伴競技者のひとりが、どちらかのパットに資するためにボールをそのままにしておくことを合意し、パットをした場合、合意をしたおのおののプレーヤーには2打罰が課せられる。」以上のように規定されています。
今回は、ノックスがバンカーショットを打つ前に、ケビン・ナー選手との間に合意が成立していたとは考えられないので、ペナルティーは課せられません。しかし、常日頃から非常に仲のいい選手と一緒にラウンドしている場合、チップショットを打つ相手とあうんの呼吸(部外者には合意と判断できない)で、短いパットをマークせずに、そのままにしておくということは考えられます。
われわれとはけた違いの精度でショットを打つプロの選手は、われわれが考えもしないルールの存在を意識しながらプレーしています。ラッセル・ノックスのスーパーショットを堪能ください。併せて “Hit my ball.”というケビン・ナー選手の叫びも、、、