今週の米PGAツアーは、「AT&Tバイロンネルソン」がテキサス州で開催されている。バイロンネルソン(1912―2006)は言うまでもなくゴルフ界のレジェンドで、歴代6位となる米ツアー通算52勝をあげ、メジャータイトルを5つ獲得した。その偉大な功績をたたえるためこの大会の大会名に使われている。
この大会のタイトルスポンサーである通信会社AT&Tは、スポンサー契約が2024年まで残っているにもかかわらず、今年をもってスポンサーを降りる交渉を米PGAツアーとスタートさせた。
AT&Tは「バイロンネルソン」以外にも、米ツアーで毎年2月に開催される「AT&Tペブルビーチプロアマ」という人気の大会でもタイトルスポンサーをつとめていて、今回バイロンネルソンのほうから撤退する理由は、ペブルビーチプロアマのほうにもっと注力したいという判断があった。
来年からバイロンネルソンのタイトルスポンサーとして名乗りをあげたのは、レイセオンテクノロジーという会社で、その方向でいろいろ準備が進んでいたが、米PGAツアーのコミッショナーであるジェイモナハンが待ったをかけた。
レイセオン社は、バージニア州を拠点とする大手の航空・軍事会社で、最近サウジアラビアにミサイルを販売することをアメリカ政府より承認された。サウジアラビアといえば、その保有する基金が、昨年創設されたLIVゴルフを財政的に全面バックアップしている国である。
サウジアラビアは、同性愛者を処刑したり、裁判をおこなわないで犯罪者を処罰するなど、さまざまな人権侵害が国際的な批判にさらされている。その批判をかわすために、国際的なスポーツ大会に多額の資金を投入して、批判の声を封じようとしている。
なので、コミッショナーのジェイモナハンは、サウジアラビアとあらたな取引関係を結ぼうとするレイセオン社が、米ツアーが主催する大会のタイトルスポンサーとなることを嫌った。
米PGAツアーがLIVゴルフを脅威と感じて、そのバックにいるサウジアラビアを警戒する理由は十分理解できる。しかしそれ以上に、基本的人権が保障されていないサウジアラビアという国と関係が深い企業が、大会のタイトルスポンサーとなることで、米PGAツアーの動きが今後制約を受けることになることを恐れたのかもしれない。